DTP全盛である。…っていうより、今は電子出版だのタブレット書籍だのと何がどう編集されて、どこに何がコピーされているのかわからん時代である。
関西の名物編集者である江弘毅(元ミーツ・リージョナル編集長)とは、現在同じフロアで机を並べる仲だが、面白いことに最近の編集者なら全く使わないであろう級数表とトリミングスケールが未だに手元にある。もはやそんな単語を知っている編集諸氏も年々少なくなって来ていると思うが、かつて編集者はひとりに一個のセットを常に持っていた。
級数表は誌面の文字(今でいうフォント)の大きさや長体だの平体だのと文字の組み方を編集者が指定していた頃の遺物である。トリミングスケールは写真(特に紙焼き)のトリミング位置や縮小率を算出するための計算尺みたいなもの。江弘毅は連載原稿やら寄稿やら文章書きの仕事がもっぱら増えた最近ではあるが、なぜか常にこの二種類のツールを手元に置いている。
「なんで級数表なんすか?」と聞くと、「なんか文字の量とかレイアウトの具合とかパッと見てわかるんはコレ当てんのが一番なんや!」という応え。そう僕自身も文字数カウントとかデジタルな文字の拾い方には少し違和感がある。どうしてもあの□がひたすら並ぶ級数表が「お前しっかり原稿書けよ!」とこちらに向かって来るようで、「あぁ編集やってるな…」という実感が沸いて来るというものなのだ。
そういう編集者なりの身体能力ってのが要求された時代があったのだ。多分、江弘毅はこの“カラダで覚えた感覚”を降臨させる時にこのペラペラの下敷様のプラ板を手に取るのだろうと思う。
関西だとか、東京だとか、グルメだったりオシャレだったり、そのキーワードに身体で反応出来る編集者ってのが最近激減して来たように思う。「パソコン切ればタダの人」ではやっぱりこの仕事はダメなんだと、最近痛切に感じているのである。
石原卓「東奔西走 関西の編プロ社長奮闘記」バックナンバー
- 第5回 関西の味についての一考察(11/30)
- 第4回 編集とは行儀ではないかという仮説(11/16)
- 第3回 江戸好みの京都特集ってどうよ!(11/9)
- 第2回 版下の時代にあったモノ(11/2)
- 第1回 企画書の開き方、東西東西。(10/26)
『編集・ライター養成講座 総合コース』
※本コラムの執筆者 石原卓氏は大阪教室にて登壇します。
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