渋谷駅から徒歩数分のビルの2F。
2012年12月16日の衆議院議員総選挙に向けて、有志が集い、「せんきょキャンプ渋谷」が立ち上がりました。
この活動がユニークなのが、どこか特定の政党を応援するのではなく、「投票率を上げる」「政治への関心を高める」ことを目標としているところ。
前回の衆議院総選挙の20歳〜25歳の投票率は50%を下回っています。
「投票率の低さって、もしかしたら、コミュニケーションで解決できる問題かもしれない。広告クリエイターにできることがあるかも……というか、選挙ってクリエイティブのテーマとして面白いかも」
そんな思いから、僕も、この活動に参加しました。
投票率向上のために、コミュニケーションの力にできることって?
「せんきょCAMP」を立ち上げたメンバーの一人である、greenz.jp発行人、鈴木菜央さんに話をうかがいました。
広告の未来の話をしよう。COMMUNICATION SHIFT
今回は、選挙直前スペシャル!です。
鈴木菜央(すずき なお)プロフィール
greenz.jp発行人/NPO法人グリーンズ代表理事 76年バンコク生まれ東京育ち。2002年より3年間月刊「ソトコト」にて編集。独立後06年「あなたの暮らしと世界を変えるグッドアイデア」をテーマにしたWebマガジン「greenz.jp」創刊。07年よりグッドアイデアな人々が集まるイベント「green drinks Tokyo」を主催。メディアとコミュニティを通して持続可能でわくわくする社会に変えていくことが目標。
「せんきょCAMP」で、僕らと政治の距離感を縮めたい。
並河:はじめまして。まず、今回、「せんきょCAMP」を立ち上げた狙いを聞かせていただけますか?
鈴木: greenz.jpは、社会や環境の問題を解決するアイデアを伝えるウェブマガジンです。
社会や環境の問題をクリエイティブに解決している方々を取材する中で、僕自身、世の中が大きくいい方向へ変わっているな、と感じています。
でも、すごく大きな壁として、「政治」というものがある。
僕らと政治とのこの距離感はなんなんだろう、と。
たとえば、アメリカでは、環境や社会の話をするなかで、みんな、ナチュラルに政治の話をしているんですよね。
日本は、そもそも政治の話題って、しゃべりにくかったり、タブーになっていたり。そういう部分を変えていけないだろうか、と思って、今回、「せんきょCAMP」を、元内閣官房参与・工学博士の田坂広志さんやアースガーデン代表の南兵衛さんといっしょに立ち上げました。
並河:「せんきょCAMP」って名前が面白いですよね。なぜ、CAMPなんですか?
鈴木: キャンプって、人任せじゃないでしょう。
火を起こしたり、ごはんをつくったり、ぜんぶ自分たちでやる。政治や未来について、自分たちで考えて、楽しみながら自由に楽しく主体的に動いていく、そんな拠点となる場所をつくりたいと思ったんです。
また、キャンプの夜に、たき火を囲んで話すと、普段話せなかったことも自然と話せたりするじゃないですか。そんな風に、政治についても話せる場所になるといいなと思っています。
ここはせんきょCAMP渋谷ですが、せんきょCAMP福島、せんきょCAMP鎌倉と、今、すごい勢いで日本各地にこのムーブメントが広がっています。
並河:でも、そもそも、政治と僕らの距離って、どうしてこんなに離れているんだろう……。
鈴木:「政治」っていうと、急に対象物になってしまうんですよね。政治がそこにあって、私はそこにいない、と。
でも、「環境」も「社会」も、昔はそうでしたよね。でも、この10年ぐらいで、すごく変わった。みんな、自分たちのこととして考えるようになった。「政治」もそうならないといけないんです。
並河:「政治」という言葉の問題もありますよね。
まちをよくしていこう、とか、社会をよくしていこう、とか言った方が、まだ他人事にならない。その中には、政治も含まれているのに、よくよく考えてみると、不思議です。
鈴木:もっと、いい言葉はありませんか?「民主主義」も「主義」っていうのが堅いし……。
「せんきょCAMP」の選挙は、「せんきょ」と、あえて、ひらがなにしたんです。Occupy=占拠、「自分たちのものにする」という意味も込めています。
投票率を上げるために必要なのは、みんなが、「どうやったら投票率が上がるかな?」と当事者になって考えること
並河:僕は、今回、東急エージェンシーの丸原孝紀さんや、MAQの山阪佳彦さんといっしょに、「勝手に!せんきょいいんかい」というウェブサイトを立ち上げました。
「投票所の前で踊ってみた動画を投稿する」とか、「マラソンのゴールを投票所にしてみる」とか、選挙に行きたくなる面白いアイデアをみんなから投稿してもらって、みんなでどんどん実行していくサイトです。
選挙って、どうしても「行かなくちゃだめですよ」と言われている感があると思うんです。
だから、投票率を上げるために必要なのは、画期的なキャッチフレーズよりも、みんなが、「どうやったら投票率が上がるかな?」と当事者になって考えることなんじゃないかな、と。
バカバカしいアイデアもどんどん出して、政治へのハードルをどんどん下げていきたいですよね。
理想をいえば、僕はどの政党がいい、とかお互い言い合っても、終わった後は、ノーサイドで、Tシャツを交換する、ぐらいになればいいんですけどね。
鈴木:いいですね。
広告には、あらゆる分野の「困りごと」を解決するようになってほしい
並河:今まで政治に関心があるなんて言ったことはなかったから、急に「選挙に行こう!」と言い出すのもおこがましいか、と一瞬躊躇したんですよ。
でも、選挙って、世の中の今のいちばんの関心事で、しかもコミュニケーションの力でできることがある。なのに、時代の流れにいちばん敏感であるはずの広告に関わる人たちが参加しないのは、おかしいなって思ったんです。
鈴木:広告って、いろいろな「困りごと」をコミュニケーションで解決するっていう仕事ですよね。今までは、広告は、企業の「困りごと」を中心に解決してきた。
でも、いまや、世の中「困りごと」ばかりなので、これからは広告が、あらゆる分野の「困りごと」を解決するようになっていっていくと素敵だと思います。
並河:たとえば、選挙ってテーマは、クリエイティビティ未踏の地。面白いことを誰もしたことがない状態だから、すごく可能性がある。
鈴木:広告クリエイターの方々に、政治をテーマに、こんなに面白いことできるよ、こんなに求められているよっていうのを、伝えていきたいですよね。
並河 進「広告の未来の話をしよう。COMMUNICATION SHIFT」バックナンバー
- 矢嶋健二さんに聞く(前編)「ゼロから市場をつくりたい」(11/28)
- 松倉早星さんに聞く(前編)「解決しない広告」(11/7)
- 佐藤尚之(さとなお)さんに聞く(前編)「効率じゃないコミュニケーションへ」(10/24)
- 丸原孝紀さんに聞く(前編)「ホットパンツで革命を」(10/3)
- 箭内道彦さんに聞く(前編)「バラバラになった日本を、広告の技と愛でつなげたら」(9/19)
- 中村洋基さんに聞く(前編)「世界をつまらなくしているものに抗いつづける」(9/5)
- 永井一史さんに聞く(前編)「デザインとは、もともと社会をよくするためのもの」(8/22)
- 澤本嘉光さんに聞く(前編)「広告の未来は、広告をつくっている僕らが決めることができる」(8/1)