市民記者ニュースの失敗
あけましておめでとうございます。今年の正月休みはうまくすれば9連休ということで、旅行する人も多かったのではないでしょうか。一方、僕はといえば、PS3のゲーム「龍が如く5」の中で日本各地をバーチャル旅行しておりました…。さすがに休みすぎたのでこれから巻き返しを図っていきたいと考えております。今年もよろしくお願いいたします。
さて、前回は情報爆発の時代において、限られた人数の編集部ではとても追いつかないため、編集はもっと民主化されるべき、という趣旨の話をしました。今回は編集の民主化のひとつの事例として、「市民記者ニュース」に触れたいと思います。
OhmyNews、PJニュース、JANJANなど、プロではない「市民」が書いた記事を掲載する市民記者ニュースが、2005年あたりからいくつも登場しました。特にOhmyNewsは、ソフトバンクの資本参加や、ジャーナリストの鳥越俊太郎さんが初代編集長に就任されたこともあり、多くのメディアでも取り上げられ話題になりました。しかし、その後は特に話題とならないまま3年ほどで終了してしまいます。その他の市民記者ニュースを標榜するサービスも同様に、ほとんどがサービスの縮小、閉鎖に追い込まれています。
市民は主張し続けられない
ニュースとは文字通り「NEWな情報」だからこそ価値があります。価値の高いニュース記事を書くには、誰よりも早く情報をつかむための「取材」や「情報網」が必要です。ただ、プロでもない限り本業としての仕事もありながら、他と差別化した情報をつかむのは無理があります。そのため、市民記者ニュースは、例えばある政策に対して自分はどう思うのかなど、あるニュースへの意見を表明する場となっていきます。ただ、ブログがなかなか続かないのと同じように、読者に有益となるような意見を主張し続けるのは難しい。いま振り返ってみてわかることではありますが、プロでもない「市民」に「記事を書き続けてもらう」こと自体にそもそも無理があったのではないかと感じています。
こうして市民記者ニュースは徐々に勢いを失っていったわけですが、最近になって、まったく別の方向から復活の兆しを見せ始めました。Twitterをキュレーションした形でのニュースです。
まとめを利用した新しいニュースの形
Twitterへの投稿をまとめることのできるNAVERまとめやTogetterには、あらゆるジャンルの「まとめ」が存在していますが、その中のひとつに、現場からのツイートを利用した「速報まとめ」があります。「現場」にいる人たちの声を集めて、コミケやiPhone発売などのイベントの過熱ぶりや、天候による災害の状況を、リアルタイムに伝えてくれるまとめです。
ツイートの一つひとつは目の前の出来事に対する「反応」にすぎませんが、それが多角度的に集まることで、状況の「あらまし」が見えてくる。初めてそういうまとめを見た時、従来の「記事型のニュース」とは違った魅力のあるニュースだと感じました。Twitterというインフラと、それを集約するキュレーションサービスが揃ったことで、かつて市民記者ニュースが目指した姿が実現したように思うのです。
価値の高いニュース記事を書くには、誰よりも早く情報をつかむための「取材」や「情報網」が必要と述べました。国内で数千万人が使っているとされるTwitterはもはや立派な「情報網」ですし、検索やハッシュタグなどを利用して情報探索という「取材」のしやすい仕組みが提供されています。鋭い観察眼と検索のスキルさえあれば、Twitterという「情報網」への「取材」結果をまとめることは、記事を書くよりずっと簡単にできる。どのメディアよりも早く情報が得られることも多いため、数多くの人に見られていますし、シェアもされやすい。いいまとめを作れば多くの人に見られるので、それがモチベーションとなって発信を続けることができる。そういうシステムが回るようになったことで、市民記者ニュースは、ようやく次のステージへ踏み出したと感じています。
今回は編集の民主化の一例として、Twitterを利用した新しいニュースの形を紹介しましたが、編集の対象はもちろんニュースに限りません。ブログやSNS、新興ネットメディアなど、いまや情報源は無数にあり、あらゆる情報を編集しやすい環境は整ってきています。とは言え、ただ情報を集めて編集するだけでは、読者に受け入れられるものにはなりません。次回はもう少し踏み込んで、「ウケる編集とは何か」ということについて考えていきたいと思います。
桜川和樹「100万人のメディアを潰した男、キュレーションを語る。」バックナンバー
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- 第8回 編集の民主化の夜明け(後編)(1/25)
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