今回から2回に亘って、タレント広告について綴ってみようと思います。
最近、頓に思うのは、せっかく貴重なマーケティング費用から契約料として安くないお金を捻出しているにもかかわらず、うまく使いきれていない会社が多いなあってこと。
ぶっちゃけ、出演が決まった時点で、満足しちゃってるんじゃないのと少しいじわるを言いたいわけです。
「あんなに好感度の高い子が出てくれるんだから、もう大丈夫だ」って、大丈夫なわけないですから!
起用する限りは、タレントがその商品の顔になってもらわないと困ります。
究極の理想は、さまざまなメディアでタレントが登場した際に、見ている側が思わずCM出演している商品を想起してしまうことです。
したがって、複数の企業と契約しているタレントを起用する場合、他の会社がどんな使い方をしているのかは十分に研究する必要があります。類似した演出では、視聴者が混乱し、結果的に商品の顔となる可能性は低いからです。
上述の理想に少しでも近づくためには、大きく分けて二つのアプローチがあると思います。
一つは、そのタレントらしさを徹底的に追求すること。
きれいが売りの女優さんなら、今まで見たことがないくらいにきれいな表情を撮る。
かっこいいが売りの男優さんなら、びっくりするほどイケてる映像に仕上げる。そういうことです。
ただしこの実現は相当難しくて、スタッフの技量とその日のタレントのコンディションにもよると思います。
加えてある一定以上のGRPも必要でしょう。
一見その映像の中のタレントは視聴者が普段見慣れているキャラクターと同じですから、「それにしても、かわいいなあ」「相変わらず、かっこいい」と改めて実感してもらった上で、購買意欲を喚起するためには、接触頻度を高くする必要があるのです。
したがってこの手法は、広告費がふんだんにある大企業にしか許されません。
もう一つは、そのタレントが普段見せない顔を見せること。
僕が以前、CM制作に携わっていた商品の出稿量は、その多くが年間でせいぜい1500GRP前後でした。
したがって上述の「らしさ」を追求する手法はとれません。
そこで、プランナーと一緒にそのタレントが出ている番組やCMを分析し、何をやってもらえば見た人が意外に感じ、結果目立つことになるのかについて議論を重ねたものです。
もちろんコンテの内容によっては、タレント側から難色を示される可能性があります。でもCMで別の顔を見せることは、タレントにとっても時として悪い話ではなくて、誠心誠意話しあえば、案外落とし所は見つかるはずです。当然、無茶なお願いをきいてもらった以上、必ずタレントにもやってよかったと思ってもらえるように仕上げる覚悟は必要ですが……。
何だかこうやって綴ってくると、タレント広告については反対の立場という印象を与えたかもしれません。
でも全く逆です。
僕はタレント広告、大賛成です。
証拠に、携わったCMの9割近くがタレント広告です。
限られた予算の中で、効率よくコミュニケーションを図るためにはタレントの力は借りるべきだと思います。
こういうと、顔をしかめるプランナーの方が多いのですが、次回はその辺りを……。
伊藤 洋介『伊藤洋介の「こうすればよかったんだぁ」』バックナンバー
- 第5回 CMだって、競合会社に育てられる(1/17)
- 第4回 CMを作るという覚悟(1/10)
- 第3回 広告代理店のこと、信用していますか?(12/20)
- 第2回 CMコンテの調査って必要?(12/13)
- 第1回 勇気を振り絞って苦言を呈する(12/6)